ラスボス聖女に転生してしまいました~婚約破棄され破滅する運命なので、生き延びるため隣国で錬金術を極めます~
プロローグ
 毎日、毎日、同じ仕事を淡々とこなすだけ。その上、ことあるごとに冗談のような量の残業が回ってくる。

 再就職先など見つける余裕もない。もちろん恋愛する時間もない。

 激務に耐えてフラフラだった私は明日からさらに一ヶ月サービス残業確定と知って頭痛が止まらなくなっていた。

 だからこそ注意力散漫だったんだと思う。若いからといって体力も無限ではない。

 信号無視したトラックに気が付かなかった。青信号だから歩く。それしか考えられなかった。

 そしてとっさに避ける気力などあるはずもなく、私は宙を舞っていた。

 途切れる前の意識の中で思ったこと。

(明日、楽しみにしていたゲームの続編――発売日だったな)

 もちろんそんなのをやっている時間はないんだけど、なぜかそれが頭に浮かんだ。

 それからどうなったのか、私は覚えていない。だって気付いたときは――。

「お姉様! リルアお姉様! しっかりしてください!」

「ううっ……、痛っ! あ、あなたは一体……」

 頭の中を何十本もの針が刺すような痛みを覚えながら私は目を覚ました。

 えっ? まさか私、助かったの?

 あのスピードのトラックに()かれたら普通は死ぬかと思っていたから驚いた。

 もしかしたら知らない間に医学というものは急成長していたのかもしれない。

「お姉様! よかった……、気が付かれましたのね!」

「――っ!? あ、あなたは、どなたですか?」

 コスプレみたいなファンシーな衣装を身につけた可愛らしい女性が涙目になりながら私を抱き起こしている。

 髪の色はまるで晴天のような鮮やかな青色、瞳は紫水晶のように輝いており、容姿は芸能人顔負け。

 まるでお人形さんみたいに可憐(かれん)な彼女は一体誰なのだろう……。

「そ、そんな。私の名前をお忘れですか? まさか記憶喪失に……」

 記憶喪失? そんなことはないだろう。

 だって、私はトラックに轢かれるまでの記憶をしっかり覚えている。通っていた小学校の名前だって言える。

(それにしても変な場所ね。ここは病院じゃないの?)

 周りの景色は見慣れないものばかりだった。例えば目の前には仰々しい十字架、そして美しい彫刻が並べられている。

 さらに天井にはなにやら荘厳な雰囲気の絵画が描かれていた。
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