面倒な恋人
醒めない夢なら



***



大きくなってくると、唯仁と慎也さんのタイプの違いがはっきりしてきた。

慎也さんは少し小柄で美琴さんに似て優しい面立ち。
私が養女だと知ってからも、以前のまま妹のように優しく声を掛けてくれた。

唯仁は背がぐんぐん伸びて、私の身長では見上げないと表情がわからない。
それに違う学校だから登下校の時間も違うし、屋敷の中で唯仁と会うことはなかった。

(私、避けられているんだ)

ご両親の才能を受け継いだのは慎也さんだった。
音楽大学の作曲科に進んだ慎也さんから、自作のピアノ曲をプレゼントされたこともあった。

「この曲は、明凛ちゃんのために作ったんだよ」
「え? ホントに?」

「そのかわりって言うとおかしいけど、明凛ちゃんを紹介してって友だちに頼まれたんだけど会ってみない?」

いきなり慎也さんから『友だちを紹介する』なんて言われた時は驚いた。

「明凛ちゃん可愛いから、家に遊びにくる友だちの間で人気あるんだよ。どう?」

慎也さんは軽い口調で勧めてくれるが、とても受けられない。

「私、誰ともお付き合いする気がなくて……ごめんなさい」

「残念だなあ。じゃあ、また機会があったらね」
「すみません」

ペコリと頭を下げると、慎也さんが不思議そうな顔をした。

「でも、どうして?」
「え?」
「どうして、誰ともお付き合いしないって決めてるの?」

「それは……」

自分の気持ちがうまく言葉にできなくて、つい黙り込んでしまった。

まさか『生みの母のような生き方をしたくないから、誰ともお付き合いしたくない』とは言い難い。
そんな私に慎也さんは思うところがあったのか、ポンポンと頭を軽く叩く。

「明凛ちゃん、あんまり産んでくれた人のこと気にしない方がいい」
「慎也さん?」

「きっと明凛ちゃんじゃなきゃダメって言ってくれる人だっているさ」

「⁉」

私が悩んでいることを、慎也さんは感じたらしい。

「それに、誰かと出会う前に自分で壁を作ったら、明凛ちゃん自身を見つけてもらえなくなっちゃうよ」

慎也さんはわざと茶化すような話し方をして、私の気持ちを思いやってくれたのだろう。
その時の私は誰かに見つけて欲しいとか恋がしたいなんて思えなくて、慎也さんをぼんやりと見つめているだけだった。


そんな私を、唯仁がじっと見ていたことに気付きもしなかった。









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