面倒な恋人
唯仁の想い


***


明凛と俺は幼なじみだ。
もの心がついた頃には、毎日のように遊んでいた。
明凛の兄の紘成とは、特にウマが合った。俺のゲームの腕は紘成に鍛えられたようなものだ。
慎也とは兄弟といってもまったくタイプが違ったから、紘成といる時間の方が長かったかもしれない。

幼い頃の明凛はコロコロと表情の動く面白いヤツだった。

チョッとしたことでよく笑うし、悪戯をしかけたりイジワルなことを言ったら怒ってプウッとふくれていた。
意地っ張りで可愛くて、俺にとっては欠かせない遊び相手だった。

あまりにからかい過ぎたのか、いつの間にか明凛は慎也に懐いてしまっていた。

無性に腹が立ったので、なるべく存在を無視することにした。
ピアノも上手いし成績もよかった慎也に明凛を取られたようで悔しかったんだ。
今思い返せば、俺もガキだったってことだ。

あれは、俺と明凛が中学生になったばかりの頃だろうか。
知らない女の人が屋敷の門で待ちかまえていたことがあった。

紘成に『走れ!』と言われて、夢中で屋敷の中に駆け込んだのを覚えている。

あの日から、泣いたり笑ったり感情表現が豊かだった明凛が妙に大人しくなってしまった。

『明凛ちゃんは大人になったのよ』

母はそんなふうに誤魔化していたが、どうにも気分が悪かった。
楽しければ素直に笑って、理不尽ならムキになって怒っていた明凛が自分の感情を見せない。

(なにカッコつけてるんだ)

気になっていたら、父と母が話しているのをたまたま耳にしてしまった。

『ご両親が明凛ちゃんに養女だって話したそうよ』
『知っておいたほうが明凛ちゃんのためだろう』
『かわいそうに……』

明凛が感情を押し殺している理由がわかった。
養女だからと遠慮して、心の中を見せなくなったのかと思うとやりきれなかった。

俺が好きだった、意地っ張りなくせに我慢強くて、とっても幸せそうに笑う明凛が消えてしまった。

(心から笑えよ!)

だが、愚かな俺は意地を張ってしまった。自分から明凛に声をかけようとはしなかったんだ。

すぐに後悔することになるなんて、思ってもみなかった。



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