面倒な恋人
待ち合わせたのは、いつもふたりで会う時に利用している小料理屋だ。
小ぶりな店構えだが細長い造りで、奥には個室があるから話をするにはピッタリだ。
紘成の方が先に案内されていて、手酌で日本酒を飲み始めていた。
「遅くなってごめん」
「いえいえ、御曹司をお待たせしては申し訳ないですからね」
昼間のやり取りを思い出したのか、皮肉っぽい言い方だ。
「日本酒飲むか?」
「いや、俺はビールで」
ニ、三品を適当に見繕ってもらうよう注文してから、お互いに顔を見合わせる。
「さて、なんの話だったかな」
紘成はわかっている癖に、俺を煽るように聞いてきた。
「明凛に弁護士を紹介したんだろ」
「おまえ、ストーカーか? なんで知ってるんだ?」
まさか、明凛の部屋を訪ねて偶然見かけたとは言いにくかった。
「チョッとな。悪いが、その相手は断ってくれ」
そこで「お待たせしました~」と声がかかった。
運ばれてきたビールや料理が並べられてから、俺は話を続ける。
「やっと明凛が慎也や母から解放されたんだ。余計なことはしないで欲しい」
「お前、やっぱり重いな~」
呆れたように紘成が言う。
仕方ないじゃないか、こっちだって何年越しだかわからないくらい耐えてきたんだ。
「明凛に、打ち明けたのか?」
俺の気持ちを知っている紘成は、意味深な視線を向けてきた。
「俺の気持ちは伝わってると思う」
そう言ったら、怪訝な顔をされた。
「いや~、どうだかな」
「え?」
「この前も会ったけど、お前の気持ちなんてサッパリ伝わってないと思うぞ」
バッサリ切り捨てるように言われて絶句した。
さすがに紘成は明凛をよく知っているから、俺としては反論できない。
確かに言葉では伝えていない……その事実にやっと気が付いた。
明凛のこととなると、どうもいつも通りにいかない。