地味子なのに突然聖女にされたら、闇堕ち中の王子様が迎えにきました
イブがジゼルと食席を離れて戻ってくるまでの間。

 コソコソと、第三王妃のメルダが息子のアベルへ耳打ちする。どうやら自分じゃなくてジゼルを選んだことが疑問だったらしい。

「ねぇ、なんでジゼルちゃんなの?私じゃダメだったの?私の方が可愛いワンピースたくさん持ってるのに」

「ジゼルが一番、父さんの意図を汲んでくれるからだよ」

「だって、ジゼルちゃんの服ってヘソ出しばかりじゃない。あんなの着てきたら……」

「まぁ、ドぎついコルセットしてるよりは良いと思うよ?」

「はっ!もしかしてあの人ったら若い女の子のヘソ出しが見たいのかな?」

「どうして、そう考えがいつも飛躍する訳?俺は時々、本当に母さんと血の繋がった息子なのかって考える時があるんだけど」

「何言ってるの、私の息子に決まってるじゃない、私の顔にそっくりなのにー。髪のクセも一緒なのにー」


 親子間でコソコソやり取りする中、一方では、ここの長である口髭を品良く携えた王様が執事へ細かく注文していた。


「彼女の分のお肉は食べやすく切って出してくれないか。もちろん温め直してね。あと、デザートは女の子が好きそうなものを何種類か作ってくれ。彼女に選ばせてやりたい」

 それを聞いていたグレンと俺は、まるで娘ができたかのようだなと微笑ましくも思いつつ、少女とはいえ女が絡むとさすがぬかりないなと感心した。
 そしてこの天然女たらしは、これを自然にやってのけるもんだからすごい。

 新しい家族の仲間入りに極甘な王様に対し、それを隣で聞いていた第一王妃イザベラが間髪入れず口を挟んだ。

「陛下、御言葉ですが。淑女教育には大切なことです。いくら田舎から出てきたばかりとはいえ、甘やかしてはいけません」

「初めてフェンリルから出て、初めての国で初めての食事だ。こんなところに着慣れないドレスを着させられて、よく分からないテーブルマナーを強要されて可哀想だろう」

「で、ですが」

「それに、君だって見ただろう。あんなに美味しそうに食べる彼女に好きに味合わせてやりたいじゃないか」

「それでも、本人が恥をかかないように、傷つかないようにするためには必要な訓練なのです。あなた方が日々鍛錬を積むのと一緒です。女性社会だってそんなに甘くないんですから」

「まぁまぁ、イザベラ。そんなに心配しなくたって大丈夫よ。夜会だって、これだけおっかない護衛引き連れてたら、意地悪する人間なんてそうそういないわよ」

 ワイングラスを片手にほろ酔いのメルダが、隣でプリプリしているイザベラの肩を叩いてなだめる。
 ちらっと、泣く子も黙るヴィンセント王、グレン、俺、アベルを一瞥するイザベラ。まぁ確かに、とでも言うように下を向いてバツの悪そうな顔をしている。

「べ、別に意地悪をしている訳じゃないの。あの子のためを思って」

 顔を赤くして困ったように言う可愛い第一王妃に、まるで可愛いという吹き出しが見えるよう、愛しむように微笑む王。

 そんな様子に、やれやれとグレンが苦笑いする。

「分かってるよ、僕は君のそういうところを好きになったんだから」

「ヴィ、ヴィンセント様」

「もちろん、メリダの天真爛漫なところもすごく好きだよ」

「メリダもヴィンセント様大好きです……っ」

 イザベラだけではなく、メリダがぶーたれる前にフォローを入れてくるあたりさすがだ。
 
 まるで食卓にピンク色のハートが乱舞しているのが見えるよう。
 たまらず、吹き出したのは息子達。歯の浮くようなセリフがこうも容易く飛び出すのは珍しいことじゃないが、できれば子どもの前ではなるべく避けて欲しいものだ。

 賑やかな食卓に、俺は久しぶりにこの輪の中へ入った気がした。
 いつもの食事が、こんなに楽しいものだったんだ。モノクロな家族風景が今日はやけに鮮明に映った。


「レオ、楽しいかい?」

「あ、あぁ」

 薬を飲んでいないことを咎められるかと、一瞬動揺するがすかさずグレンが庇うように口を挟んだ。

「お父さん、これはレオ1人が決めたことじゃない。俺達3人で、」

「分かってる。ハイデラから全て聞いている。私も嬉しいよ。あの子大事にするんだよ」

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