キスのその後に
『最後のキスはタバコのfravorがした』

急に、母親の車で流れていた曲のフレーズを思い出した。「名曲なのよ」と母親は言っていたし、すごく綺麗な曲だと思って聴いていた。

しかし実際、タバコの味がするキスは不快でしかなかった。

先輩はまだ高3だというのに。
そもそもタバコは、二十歳になってからでしょ。

しかも口の中に入ってきたあのぬるっとした物体は…。
舌?だよね。

優香は胃酸が上がってくるような感覚に襲われた。

まさか自分のファーストキスがこんな形になるなんて。
思い描いていたものとは、かなりかけ離れている。

崇拝する少女漫画に登場する男の子たちはタバコなんて吸わないし、キスの時に舌を入れたりもしない。

これから先、事あるごとに思い出すであろうファーストキスが。
タバコの味とは。
ぬるぬるした感触とは。

ありえない。
これは現実なのか。

優香はもう一度、袖で唇を拭った。
何度こすっても、あの匂いと感触が消えない。

…浄化しなければ。

早く帰って、私が敬愛すべき男子たちで心を満たさなければ。

制服のポケットの中でスマホが震えた。

『次いつ会える?』
間宮からのLINEだった。

優香は無視を決めた。
もう連絡をすることはないだろう。

後ろから夜の闇がやって来る。
西の空だけが、まだ少しオレンジだ。

優香はスマホを握りしめたまま、走り出した。
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