円満夫婦ではなかったので
過去の記録

開け放たれた窓からうだるような熱気が入り込む。何かに急き立てられるような蝉の声が静かな部屋に響き渡る。

園香はそれらを気に留めることはなく、フローリングの床に座り込んだままページを捲る。


【十二月十日。結婚式から十日が経った。
瑞記との関係が上手くいかない。考えてもどうしてか分からない。
思考を整理するためには、日記をつける行為が役立つと聞いたから、今日から思ったことを書いていく。

瑞記はふたりでいても上の空で私の話を聞いてないようだ。
原因が分らなくて困惑している】


この日記を書いたときの園香は、誰かに見られることを想定していたのだろうか。

それともただ慣れていないだけなのか。

どちらにしても、自分らしくないと感じる素っ気なく固い文章に違和感がある。



【十二月二十四日 結婚して初めてのクリスマス。
クリスマスイブは一緒に過ごそうと約束したから、ご馳走を用意した。
でも瑞記は出張からまだ帰らない。連絡も取れないから心配だ】

【十二月二十五日 昨日瑞記は帰ってこなかった。連絡はなく電話も繋がらない。
事故に遭ったのだろうかと何も手がつかずにいたら母から電話が来た。
元旦の予定について聞かれたが、保留にした】


【十二月二十六日 瑞記が帰宅した。事故などではなく仕事だったそうだ。
心配だからが必ず連絡をして欲しいと話したら嫌な顔をされ喧嘩になった。
彼が怒鳴るところを初めて見た。
あれ以来瑞記が口を利いてくれなくて、どうすればいいか分からない】

【十二月二十七日 瑞記がまた出て行ってしまった。
どこに行くか聞いたけど無視されてしまった。
あんなに優しかった瑞記が別人みたいで、どうすればいいのか分からない。
どうして変わってしまったのか、何が悪かったのか】

日記にはその日以降も瑞記との不仲が綴られている。


当時の園香は混乱しているようで、いつも“どうしていいか分からない”と書いてありる。

日記に書かれている文体が段々感情的になり、不思議なほど弱気に見える。



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