円満夫婦ではなかったので
驚くくらい心を許せて安らげるパートナー。彼女は瑞記にとって必要不可欠な存在だ。
彼女がいるから、クライアントからの無理な注文にも過度な期待にも応え続け、今日まで来られたのだ。
彼女――名木沢希咲と出会ったのは、五年前。
当時働いていた中堅デザイン事務所に希咲が中途入社したのがきっかけだ。彼女は業界経験者だったから即戦力で、ふたりでチームを組んで仕事をする機会が多く、自然な流れで親しくなった。
誰もがはっと振り返る程の美貌を持ちながら気さくで明るい希咲は、社内でもクライアントの間でも人気者。そんな彼女に恋をする男が次々と現れた。実は瑞記も彼女に憧れのような気持ちを抱いた時期がある。
『私、実は既婚者なんだ』
そう軽く言われて、育ち初めていた想いは
あっけなく消えたのだけれど。
しかし今振り返ると深みに嵌る前にふっきれて良かった。
おかげで希咲とは公私共に支え合えるパートナーになれたのだから。
自分たちは、男女の違いなど関係なく分かり合えるとても心地良い関係だ。
きっと希咲もそう思ってくれている。
瑞記は体の力を抜いて、すぐ隣に座る希咲の肩にもたれかかった。
「園香が大怪我をしたって言っただろ?」
「ええ。例のオフィスビルの階段から落ちたって。怪我の具合はどうなの?」
「全身酷い打撲だけど、骨折はしてないようだよ」
「あの長い階段から落ちて? 運がいいのか悪いのか分からないわね。それにしてもどうしてあのビルに居たのかしらねえ」
希咲がほっそりした指を小さな唇に当てて、首を少し傾ける。
「そうなんだよな……よりによってあの場所で問題を起こすなんて」
瑞記は思わず溜息を吐いた。