円満夫婦ではなかったので

その話を聞いたときは、何を考えているのか分からない夫だと思ったが、実際本当に何も考えていなかったとは。

(この感じだと、面倒事は早く解決したい、くらいにしか思ってなかったんだろうな)

世間的には高額な慰謝料も、彼にとっては負担にならないだろうから。

慰謝料を受け取った相手が、どれほど傷き悔しい思いをしたのかまでは、考えていなかったのだろう。

所詮は他人事だから。忙しく過ごしていたら、あっという間に忘れてしまう程度の出来事。

「あの、こんなことを聞くのは失礼だとは思うんですが」

「構わない。気になることが有るなら、なんでも言ってくれ」

園香の迷いながらの言葉を、名木沢が肯定するよう頷く。

「……希咲さんと離婚はしないんですか? 私が知っている限りでも彼女は有責なので、あなたが望むなら離婚が認められると思うんですが」

「できたらいいんだが、事情が有って俺から離婚するのは難しい」

名木沢が苦笑いを浮かべた。それはとても疲れたような、諦めすら感じる表情だった。

「そうなんですか」

相手が悪くて、離婚を望んでいても別れられない理由。

園香には思いつかないが、しがらみのようなものだろうか。

「園香さんは離婚を考えているのか?」

「はい。そのつもりです。両親も納得してくれていますので」

正直に答える必要はないが、隠す必要もない。

むしろ彼から希咲に伝わるのを期待する気持ちもあった。
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