円満夫婦ではなかったので
「客観的に見たら仕方ないと思います。突然、あなたの奥さんが不倫をしています、なんて連絡が来たら警戒するし、知らない相手と会うのも嫌だと思うので。私が不思議なのはどうして気持ちが変わったかです」
彼とは結局会えなかったようだから、以前の園香が涙で訴え同情を買った、なんてことはないはずだ。
先日ショールームで会話をしたときだって、かなり淡々としていてい、心に響くことなんてなかっただろうに。
「園香さんと約束をしていた日、時間になっても君が来なかったから、気が変わったか怖気づいたんだろうと思っていた。そのときは、面倒が減ったくらいで大して気にしていなかった。だが後日、グランリバー神楽第二で事故が起きたことを知った。グランリバービルは神楽グループの関連会社が多く入っているから、そういった情報が回ってくるんだ」
「私が階段から落ちた事故ですよね?」
「そうだ。そこで被害者が君だと知って驚いたよ。事故が起きたのは四月十七日の午前十時頃。まさに俺が君と約束をしていた時間だったから」
園香は彼の言葉にぴくりと反応した。
(約束をしていた時間? 私はやっぱり間違って違うビルに行ったってこと?)
場所を間違ったことに気付き、焦って階段から落ちたのだろうか。そうだとしたら、あまりに情けない。
名木沢も同じことに気が付いたのだろうか。一瞬戸惑いの表情になったが、とくに触れずに続きを口にする。
「事故に俺も関係していると思って、事故と君の状況を確認したんだが、調べているうちに無関心だったことで他人にまで迷惑をかけていることを思い知った。妻は園香さんと関わる以前にも、いくつかトラブルを起こしてきたが、事務的に対処して来たのは間違いだったのかもしれない。俺はあまりにも他人の感情に無頓着だったと考えるきっかけになったんだ」
「……そうなんですか」
(以前のトラブルって、彬が言っていたソラオカ家具店社員との不倫嫌がらせ騒動かな?)
彼は、示談の段階で出て来て高額な慰謝料を文句を言わずに払ったと言っていた。