円満夫婦ではなかったので

「怒ってそうだねー。でも正直に仕事でしたって言ったら更に機嫌を損ねてしまいそう。あ、でも私の存在も忘れてるのか。それなら大丈夫かな?」

「どうだろうな。でも希咲のことは何も覚えてなかった。会話の中で“名木沢さん”って名前を出してみたけど、これといった反応はなかったんだ」

「瑞記ったら、そんなこと試してたの? 奥さんが可哀そうじゃない」

「含みがあった訳じゃないのに? ただ仕事について質問されたから答えただけだ。仕事の話なら希咲の名前を出すのは当たり前だろう?」

「そう。まあ奥さんが平気ならいいのかな。むしろ嫌な思いをせずに済むようになったみたいだし、記憶がなくなったのが良い方向に作用したのかも。私にとっても罪悪感に悩まされなくなるからよかったかな」

「罪悪感って」

瑞記は眉を顰めた。

「希咲は何も悪くないだろ? 元々罪悪感なんて抱く必要はないんだ」

いつも明るくて前向きで誰に対しても平等な精神を持つ希咲がそんな暗い感情を持っていたのかと思うと、その原因になった園香に対して苛立ちがこみ上げた。

「悪いのは妻だろ?」

夫婦仲が悪化したのは、園香が瑞記と希咲の関係を変に疑ったのがきっかけだ。
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