円満夫婦ではなかったので

『瑞記、園香さんと結婚が決まりそうなの?』

『いや。僕は早く結婚したいんだけど、彼女がまだ結婚は早いと思ってるみたいで。残念だけど結婚は当分先になると思う』

『そうなんだ』

少しだけ安心した。ところが夏過ぎから状況が変化した。

『園香がプロポーズを受けてくれそうなんだ』

仕事後に食事をしているとき、瑞記が秘密を打ち明けるように、でも嬉しそうに言った。

『え……彼女は結婚に乗り気じゃなかったんじゃないの?』

『仕事を優先したがってたんだけど、広報部に異動して考えが変わったみたいなんだ。僕と結婚して家庭に入ってもいいって言ってる』

瑞記は嬉しそうだった。

共働き夫婦を望む男性が多い中、瑞記は専業主婦を希望している珍しいタイプだ。

園香がなぜ考えを変えたのかは分からないけれど、彼が理想としている暮らしを手に入れようとしているのはたしか。

『……もしかして異動先で上手くいかないから結婚することにしたの? それってつまり逃げ出すってことよね。それはどうなのかな?』

イライラしていたせいか、思っていた以上に嫌味っぽい声が出てた。

しまったと思ったときはもう遅く、瑞記の顔に不快感が表れていた。

『園香にもいろいろ事情があるんだ。それにもし逃げるんだとしても、僕はそれでいいと思うよ』

『そ、そうなんだ。余計なこと言っちゃったね』

希咲は受けた衝撃を隠すように俯いた。

(瑞記が私をあんな冷たい目で見るなんて)

園香を悪く言われたから、怒っているのだろうが、温厚な彼が、ここまではっきり態度に出すとは。
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