円満夫婦ではなかったので
夫の同僚とはいえ、今の園香にとっては初対面の相手なのだ。もう少し回復して身なりを整えてから挨拶したい。
そう思うのは当然じゃないだろうか。
しかし瑞記は、園香の気持ちを察することが出来ないようだった。
『瑞記の同僚に会うのは退院してからがいいな。病院じゃおもてなしもできないし』
瑞記は『おもてなしなんて、そんな細かいことは気にしなくていいよ』とか『心配してくれている人を拒否するのはよくない』などしつこく食い下がって来た。
『私は気にする』
『だから気にするなって』
『それは無理だよ』
かなり執拗だったが、園香の意思が固いと悟ると諦めたのか不満顔を隠しもせずに溜息を吐いた。
『園香は本当に頭が固いよな』
『そういう問題じゃないでしょ?』
『つっかかるなよ、自分が悪いのに。でももういいよ。名木沢さんには断っておくから』
不貞腐れたような瑞記の態度に園香のいら立ちは増していく。
それでも感情的になっては駄目だと自分に言い聞かせた。
『会わせたい同僚って名木沢さんなの。確かとても信頼出来るパートナーだって言ってたよね?』
『そうだよ』
『せっかくのお見舞いを断って申し訳ないと謝っておいてくれる? また日を改めてご挨拶させてくださいとも』
『伝えるけど、いつ時間を取れるか分からないよ。彼女は僕よりも忙しい人だから』
ごく自然に出た瑞記の言葉に、園香は驚いた。
(名木沢さんって女性だったの?)
ビジネスパートナーと言うから、やり手そうな男性を想像していたのだけれど、まさか女性だったなんて——。
『名木沢さんは本当に出来た人で、僕にとって必要な存在なんだ』
先日の瑞記の言葉が脳裏に蘇る。