円満夫婦ではなかったので
(それって妻よりも大切な人ってことじゃない?)

考えすぎかもしれないが、そう聞こえる。

胸の中にモヤモヤした不快感が広がっていく。

嫉妬しているのとは違うが、気分が悪い。上手く言い表せない複雑なマイナス感情。

瑞記からは園香が不機嫌になったように見えたのだろう。彼は居心地悪そうな素振りをして、しばらくすると病室から出て行った。


それ以来彼は避けるかのように、園香との関わりを断つようになった。

きっと園香に対してまだ怒っているのだろうが、そんな態度では母から冷たい夫だと思われても仕方がない。

「瑞記君が来られないなら、うちに直接来なさい。お母さんが迎えに来るから」

退院後は一カ月程実家で世話になる予定でいる。まだ不自由があるし、通院にも便利だからだ。

ただその前に今生活している住まいを見ておきたいから、横浜のマンションに寄るつもりだと伝えてあった。

「ありがとう。でも、どうしても今の家を見ておきたくて。何か思い出すかもしれないでしょ?」

「そうだけど……今の園香がひとりで行くのは危険よ?」

母は瑞記が来ないと確信している様子。園香も期待していない。

「大丈夫。電車が無理そうだったらタクシーに乗るから」

「お父さんが居たらよかったんだけど」

「その日は定例の経営会議なんでしょ? 株主総会前で忙しいんだと思うわ」

「でも……あ、そうだわ。彬(あき)くんに頼んだらどうかしら」

「え、何言ってるの? 彼は台湾じゃない」

母が言う彬くんとは、母の従姉の息子だ。ソラオカ家具店の社員でもあり、今は台湾の支店に勤務している。
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