円満夫婦ではなかったので
「どんな手を使ってでも距離を置いて関わるな。あの女は嫌がらせをしたことで慰謝料請求され解雇もされたが、結局ダメージを負わなかったんだ。脅迫罪で訴えられるところまで行ったのに、最終的に夫が出て来て示談になった」
「夫って……KAGURAのCEO、名木沢清隆?」
彬は険しい顔で頷く。
「妻の代わりに前に出て来て大金を積んで示談にした」
「名木沢希咲は夫の影に隠れて無事ってこと? それじゃあ奥さんも気持ちが収まらないでしょうね」
園香は以前調べた名木沢清隆の顔を思い浮かべた。
(不倫したうえに嫌がらせをするような妻を庇うって、どういう気持ちなんだろう)
それ程彼女に惚れているのだろうか。
(どちらにしても名木沢希咲には気をつけよう)
今のところ瑞記と不倫関係ということはないようだが、前例があるだけに安心出来ない。
「彬、教えてくれてありがとう。嫌な思いをさせてごめんね」
彼の性格では友人の秘密をばらすのは苦渋の選択だったはずだ。それでも園香を心配して知らせてくれた。感謝しかない。
「本当に気をつけてくれよ」
「わかった」
(でも、私は瑞記が不倫したらどうするんだろう)
瑞記を取り戻したいと思うのだろうか。
(……思わないかもしれない)
多分、瑞貴に離婚を言われても傷つかない。
瑞貴も同じような気持ちでいると思う。
不倫よりも先に、夫婦関係が終わりそうだ。そんな風に思った。