円満夫婦ではなかったので
「当事者たちの間では大事だったってことね。社内の噂にならなかったのはコンプライアンス部や他に関わった担当者がうまく隠していたから? でもそうするとなぜ彬が知っているの?」
考えてみたら彬人はその時期海外赴任中ではないか。
彬人は少しだけ言い辛そうに躊躇いを見せた。
「不倫当事者の男の方から直接聞いたんだ。これは他言無用で頼む」
「なるほど、分かったわ」
その男性は彬人と親しい社員なのだろう。そうなると名前を教えて貰わなくても大分候補は絞られる。
彬人は園香にばれるのは時間の問題と察して、この件は誰にも言うなと釘を刺して来た。
(彬が彼女を呼び捨てにして嫌っている様子なのは、仲のいい同僚が酷い目に遭ったからなのね)
不倫については名木沢希咲ひとりの責任ではないが、嫌がらせは別だ。
(あの磨き抜かれた美貌を持つ彼女が嫌がらせ……まだ信じられない)
彬は不本意そうに溜息を吐く。
「本当はこの話をするつもりはなかった」
「うん」
彬人の同僚の不名誉だ。自業自得とはいえ、いたずらに拡散したくはないだろう。
「だがあの女は冨貴川だけじゃなく、園香にまで近づいて来ている」
「関わるって程じゃないけど……」
彼らが言うには心配させない為の挨拶だ。
けれど今、彬の話を聞いた後だと不安になって来る。
「富貴川との夫婦仲が上手くいってなくても、あの女に何か言ったり関わるのはやめた方がいい。嫌な予感がするんだ」
「私もそうしたいけど」
瑞記と夫婦でいる限りそれは難しい。