円満夫婦ではなかったので
園香は溜息を吐きつつ、金庫に荷物を仕舞う。
貴重品だけでなく、写真や思い出の品など、他人に触れられたくないものも纏めてしまった。
終わると私室を出てキッチンに向かった。
園香が使いやすいように少し配置を変えてあるので、希咲がお茶を淹れるときにあちこち扉を開いて茶葉やカップを捜すかもしれない。
使いそうなものを分かりやすい場所に、触られたくないものを奥深くに片付けておく。
どうしてこんな気を遣わなくてはいけないのかと、途中で苛立ちがこみ上げたが、休憩を挟んで気持ちを切り替えた。
(仕事をして忙しくなったら瑞記たちのことは気にならなくなるだろうし、あと少しの我慢よ)
最近園香を避けている瑞記は今日も帰宅しないだろう。もちろん連絡はない。
園香は夕食にクリームシチューをつくり、買いおきのパンと簡単なサラダとで夕食にした。
余った分は明日ドリアにでもして食べれば、楽でいい。
少し早めの夕食を一人でとっていたとき、思いがけなく玄関のドアが開く音がして園香は驚き口に運んでいたスプーンを置いた。
とっさに時計を確認すると、午後六時三十分。瑞記が帰ってくるはずがない時間だ。
(どうしてこんな時間に?)
少し眉をひそめたそのとき、リビングのドアが開く瑞記が部屋に入って来た。
ダイニングテーブルに座る園香を視界に入れると、彼はあからさまに表情を曇らせる。
距離を置いたにもかかわらず、怒りと不満は解けていないようだった。