円満夫婦ではなかったので
「な、なんで離婚って……おかしいだろ? 簡単に言うなよ!」
「離婚を言い出したのは瑞記でしょ? 私は同意するって返事をしただけ」
「だからって……ああ、くそ!」
瑞記は柔らかなウェーブがかかった髪をぐしゃぐしゃと掻きむしる。
園香は戸惑いながらその様子を眺めていた。
(この態度は何なの? 訳がわからない)
離婚を嫌がらずに同意したことでプライドが傷ついたのか。それとも自分の思い通りにことが進まなくて癇癪を起しているのか。
それにしては、動揺が激しい気がする。
かける言葉を捜していると、瑞記は園香を睨んだまま、ダイニングチェアーから立ち上がった。
乱暴な音を立てて椅子が後ろに倒れる。
「もういい! 当分顔も見たくない!」
瑞記はそう叫ぶと、食べかけのジンギスカンを放置して玄関に向かう。
「瑞記、待って!」
(話し合いの途中なのに逃げるの? こんな中途半端な状態で?)
園香は慌てて追いかけ、彼の腕を掴む。
「瑞記、ちゃんと話を……」
「煩い離せ! 離婚したいって言ったのは園香だろ?」
瑞記は憎々し気に園香の手を振り払う。
「い、痛い……」
勢いあまってよろける妻に見向きもせずに玄関を開けて出て行った。