円満夫婦ではなかったので

(そう言えば私はどうして、あんなに長い階段を歩いて降りようとしたのだろう)

園香が転落したのは、昨年オープンした巨大な複合商業施設、グランリバー神楽だ。

インターネットで検索すると外観などが簡単に出てくるため、園香は何度か自分が落ちた階段やその周辺の様子を確認している。

一階から二階部分、二階から三階部分に外付け階段がある。

ひとつ上のフロアに上がるだけと言ってもかなりの長さだ。横幅も広く両端にエスカレーターが設置されていた。

(いつもの私ならエスカレーターを使うはず。どうしてあの時に限って階段を使ってたんだろう)

エスカレーターが混んでいたとか、昨晩食べ過ぎたので少しでもカロリーを消費したかったとか、考えられる理由はいくつかある。

けれど、なぜかひっかかる。

(そもそもグランリバー神楽に何の用があったのか自体が、いまだに謎なんだよね)

何の関わりもないビルに行って、普段とは違う行動をして記憶がなくなるなんて違和感しかない。

細かいことが気になるのは、納得が出来ないからだろうか。

「園香ちゃん、どうかした?」

「い、いえ何でもないです」

突然黙ったからか青砥が怪訝そうに園香を見ている。
慌てて笑って誤魔化したところで、注文した料理が運ばれて来た。
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