ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

「ちょ、ちょっと待ってください! まさか、その恋人役を私にっ!?」

「そういうことだな」

あっさり頷く貴志さんに私は激しく首を振った。

「……む、無理ですそんなっ! どうして私なんですか? 偽の恋人役なら高橋さんでもいいじゃないですか」

せっかく諦めようとしてるのに。離れようとしてるのに。
恋人役なんて演じたら、気持ちがまた全部持っていかれて、努力が無駄になってしまう。

絶対無理だと語気を強くして拒絶してるのに、相手は全く折れない。

「一緒に住んでる男女が恋人同士を演じるのが、一番自然だろう?」

ぐいっと身体を乗り出してきた彼によって、私はソファの端へ追いつめられる。

「織江しかいない」

そんなに真っすぐ、本気、みたいな目で見ないで欲しい。

都合のいい女が必要なら、いくらだっているでしょうに。
どうして私なの? もう興味もないんでしょう?
最後だから、いくらでも振り回していいってわけ?


「っにも、しなかったくせに……」

「ん?」

「何もっ! しなかったじゃないですかっ鎌倉の夜! 私は対象外なんじゃないんですか!?」

ついに逆ギレっぽく叫んでしまい、ハッと固まった。
これじゃ、“シてほしかったのに”って拗ねてるみたいに聞こえるかもしれない。

あぁバカバカ!

たまらずその場から逃げ出そうと立ち上がりかけて――パシッと手を掴まれ、すぐにソファへ引き戻された。

「織江、落ち着け」

そのまま私の手は彼の口元へと運ばれて、指先に優しく唇が押し当てられる。
まるでワガママな恋人を宥めるみたいな仕草に、バクン、と心臓が飛び跳ねた。

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