ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

「お目にかかれて光栄ですわ、村瀬さん」

にじり寄り、濡れた瞳でうっとりと彼を見つめたご令嬢が、続けてお前は邪魔だ、とでもいうようにこっちをチラ見する。

不快そうに眉をひそめ身を引こうとした貴志さんだったが、そこへ父親である紳士がわざとらしく「そうだ」と声を上げた。

「事業提携の件でね、ちょっと相談があるんだよ。娘はうちで海外向けの営業を担当していてね、少しだけ娘も交えて話ができたらと思うんだが」

さすがに私だって、この紳士の言いたいことくらいわかる。

「いえ、今夜は――」
「貴志さん、私、ちょっと失礼して何か食べてきていいですか? お腹すいちゃって」

「待て、それならオレも」
「メイクも直したいので。また後で会いましょう?」

ビジネスチャンスは逃さない方がいい、と目線で伝え(伝わったかどうか怪しいが)、そのまま笑顔で頭を下げてくるりと背を向けた。

個人的な意見だけど、会社のことを考えるなら、モデルやアイドルよりさっきのご令嬢のような方が貴志さんのお相手にはふさわしいと思う。
ここなら、そういう女性との出会いもたくさんありそう。

“恋人役”の役目はもう終わってるんだし、邪魔者は消えた方がいいわよね。

何度も振り返りたくなるのをぐっと堪え、私は一人になれる場所を求めてホールの外に出た。

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