ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない


「ん……」

ゆっくり瞼を開けると、見たことのない白い天井が視界に広がっていた。
何度か瞬きして、キョロ、と朝の光に包まれた明るくゴージャスな室内を見渡す。

ここ、は……


ゆっくり上半身を起こすと、さらりと上掛けが落ち――途端。

「っ……!!」

下着姿の自分に気づいて悲鳴を上げそうになった。


同時に全部思い出す。
貴志さんと一緒にホテルのパーティーに行って、それからスイートルーム(ここ)に連れてこられて。

――好きだ。
――頼むから言ってくれ。オレと同じ気持ちだと。

真っすぐな眼差しと告白とが蘇って、全身が火照る心地がした。

部屋の中に、彼の姿はない。
耳をすましても……シャワーを浴びている、というわけでもないみたい。

帰ったんだろうか、と視線を巡らせたところで、サイドテーブルのメモ用紙に書かれた文字が目に留まった。貴志さんの字だ。

【よく眠っていたから、起こさずに出る。チェックアウトは何時になっても構わないから、ゆっくりしていけ。昨夜の告白は本気だし、諦めるつもりはない。出張から帰ったら、もう一度話し合おう】

そこで思い出した。
明日から、じゃなくてもう今日か。確か1週間くらい、シンガポールの本社に出張だったっけ……

そんなに会えないのか、と寂しく思ってしまう自分を、お前にはそんな感情を抱く資格なんてないんだと戒めつつ、のそのそとベッドから降りる。

熱めのシャワーを浴びると少し気分がすっきりした。

バスローブ姿で出てきてもう一度室内をよくよく見てみれば、テーブルの上にはきちんと畳まれた自分の服(着替える前のだ)とカバン、ルームサービスの軽食メニューが置かれている。
朝食はここで食べていけ、ということのようだ。

貴志さんはほんとに優しい。一見クールでわかりにくいけど、昨夜だって途中で止めてくれて……

間違いなく彼の恋人は幸せになれるだろう。

このまま何もなかったふりをして、彼と付き合えたら……

胸を過った願望と狂おしい想いとに急いで蓋をして、滲んだ涙を手早くぬぐった。

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