ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
14. 貴志side シンガポールにて


――どういうつもりだ。あれは、文冬の記者だろう?

――うふ、記事が出たら困ります? ホントのことにしちゃえばいいじゃないですか。


逃げ出していく記者の背中を見送りながら、オレは中条瑠衣(このモデル)に全部仕組まれていたことを悟る。まんまと罠に嵌まった自分に猛烈に腹が立った。

――記事を止めてあげてもいいですよ。私と付き合ってくれるなら。もちろん一晩だけじゃなくて……ね?

――断る。

――……は? えっ?


自分が誘えば落ちる、と決めてかかっていたらしい。
随分と甘く見られたものだ。

――ちょ、ちょっと待ってっ! 待ってよ!!

もちろん相手の思惑に乗ってやるつもりなどさらさらなく、むしろ金輪際関わるつもりもなく、驚いて追いすがる彼女を振り切って、その場を後にした。

しかし……織江に告白しようとしている今、妙な誤解を生みかねない事態になることは避けたい。さてどうしようか、と考えあぐねた末、それを逆手にとることを思いついた。

週刊誌を利用して、織江との関係を既成事実化してしまう。ついでにはっきり好きだと伝えて、ここ1週間の不甲斐ない自分に一気にケリをつけるのだ。
ちょうどおあつらえ向きに、経済界の重鎮が主催するものだからと親父に参加をせっつかれていたパーティーがある。
それを利用してやろう、とさっそく知り合いのツテを頼って文冬記者の連絡先を入手、直接交渉を申し入れた。

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