ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
――いい加減鈍いにもほどがあるぞ。そうに決まってるだろ。
――……好きだ。
あちこちから声をかけられてパーティー会場で織江を見失ったり、侑吾に嫉妬して計画が頭から吹っ飛びかけるというアクシデントはあったものの、それでもなんとか、スイートルームに連れ込むことには成功。
思い描いていたシチュエーションよりはずっと必死で、みっともない告白になってしまったが、彼女に対する真剣な気持ちはより伝わったんじゃないかと思う。
――い、言えま、せん。言えない、んです……。
なのにとうとう、彼女の口から『好き』という一言は聞けなかった。
――でもこれだけは聞かせてくれないか。オレのこと、嫌いじゃないよな?
泣きそうになりながら頷いた織江。
これまでの行動から考えても間違いなく好かれていると思うのに、頑なに認めようとしないのはなぜだ?
――お願いします。許して……もう帰らせてくださいっ。
気になってたまらなかったが、あんな胸を衝かれるような眼差しで見つめられたらそれ以上追及するなんてとてもできなかった。
――ほら、いいからもう寝ろ。オレの気が変わらないうちに。
修行僧のような忍耐力を求められた一夜。
自分でもよく耐えたと思う。
やはり、何かある気がする。
彼女が素直になれない理由が、何か。
一番考えられる可能性としては、彼女が予定しているという見合いだが……そこに“S”が関わってくるのかどうか。
まったく想像もつかない。
日本に戻ったら、そこを解決しなくちゃな。
まずはどんな男が相手だろうと、絶対その見合いを潰す。
いざとなったら親父だろうと会社名だろうと利用して――
「……ぃっ! おい、貴志!!」
ハッと我に返ると、焦ったような困ったような顔で親父が隣からこっちを見つめていた。
オレたちが座っているのはアンティーク調の豪華なソファ。
天井では緩やかに白いファンが回転し、大きな窓の向こうには強い太陽に晒された濃い緑の葉が広がって……明らかに、東京とは違う風景。