ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
すぐにここがジャックス――リーズグループ歴代総帥の私邸と執務室を兼ねたシンガポール市内の建物――の応接室であり、自分が総帥と面談中であることを思い出して、ドッと冷や汗が吹き出した。
<本当に、愚息が申し訳ありません>
<っ……も、申し訳ありません、ちょっと考え事をしておりまして>
親父に倣って英語で謝罪し、頭を下げたオレの耳に笑い交じりのテノールが聞こえてくる。
「止めようよ、日本語でいい。その方が僕と君らしいじゃないか」
正面のソファ。
ノータイの白シャツとリネンパンツというカジュアルなスタイルに身を包んだヨーロッパ系の美丈夫が流暢な日本語で言い、オレへ「ね?」とウィンクしてくる。
オレより年上のくせに、そんな2次元キャラみたいなふざけた仕草が妙に似合う男――こいつこそが、リーズグループの現トップ(内部では総帥と呼ぶ)ライアン・リーだった。
輝く金髪とエメラルドの瞳が人目を惹く白皙の美貌、格闘技で鍛えた恵まれた体躯を備え、同性から見てもフェロモンっていうか色気っていうか、いろいろ駄々洩れてるヤツだ。
こんな男に口説かれたら、どんな女もイチコロだろうな。
絶対織江はこいつに会わせないことにしよう。そうしよう。
「で? 何を考えていたんだい? 君のそんな顔は初めて見るよ。気になるなぁ」
ライアンの言葉を聞いた親父が、オレたちを不思議そうに見てくる。
「もしかして……愚息をご存知でしたか? あぁ、確か総帥は以前東京に住んでおられたことがあるんでしたね。その時に?」
「うん、まぁね」
くすくす可笑しそうに笑い、「なかなか楽しかったね」と同意を求めてくる。
親し気な雰囲気にますます首を傾げる親父。
まぁ、思いつきもしないだろうな。
総帥に就任する前のライアンとオレがコンビを組んで、シークレットデパートメント、通称「SD」と呼ばれるリーズグループの極秘諜報部門の仕事を請け負っていたなんて。
今現在リアルタイムで関わってはいないが、当時のことは秘密厳守が原則だ。
たとえ家族であっても。
だからここは、「はぁ」と曖昧に苦笑するしかなかった。