ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
16. 織江side 落ち込んでる場合じゃないので、頑張ります。

あっという間に3週間が過ぎた。

7月ももう下旬となったある土曜日の午後、私は都内のとある欧風の一軒家でナイフとフォークを無心で動かしていた。

窓の向こうには、整然と刈り込まれた広いお庭。
綺麗ではあるけど、どこか落ち着かない……あぁそうか、蝉の声が聞こえないんだと、ぼんやりと考えた。

ここは、家庭的な雰囲気が売りだという会員制の料理教室だ。

お継母さんから、お友達が教えてるところだからと勧められた時にすでに嫌な予感はしたのだが、案の定料理なんて二の次三の次。
先生とアシスタントがさらさらっと作ってしまい、後はそのお料理をいただきつつ自慢話大会。これを時間の無駄と言わずなんと言えばいいのだろう。

「来週ドバイに行きますの。去年行った時に、娘が気に入っちゃって」
「あらぁ素敵。うちは毎年恒例なんだけど、カリブ海クルーズよ。あの美しさったら、行った人にしかこの感動はわからないと思うわ――……」

ロココ調、とでも言えばいいのか、マリー・アントワネットのお部屋、みたいなゴテゴテ装飾過多な家具が並んだダイニングルーム。
延々と続く終わりの見えない不毛な会話を、ニッコリ笑顔で右から左へと聞き流し、私は死んだ魚のように違いない目を純白のテーブルクロスへ落とした。

一応建前として、今現在私は一星百貨の配送センターに派遣されている、ということになっている。が、私の居場所はそこにはない。
自宅研修、という名で実家に閉じ込められ、家事の一切を押し付けられ(家政婦さんは辞めていた)、空いた時間は花嫁修業という名の苦行がぎっしり。軟禁状態、といっていいと思う。

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