ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

「……えぇ、はい。突然のことで、申し訳ありません。はい、夏バテかもしれませんね。いえ、大丈夫です。こちらの都合ですので。はい、今日はゆっくり休みます。また次回、よろしくお願いします」

8階のエレベーターホールの片隅で、スマホの通話を切る。
材料だけご自宅まで届けましょうか、とありがた迷惑なことを言われた時はギョッとしたが、なんとか乗り切った。

よし、これで数時間、時間が空く。
ホッと肩から力を抜いてスマホをしまい、汗ばんだ手をハンドタオルでぬぐう。

こんなことをしたのは初めてで、相当緊張してるらしい。
3週間大人しく言いなりになってたから、疑われることはないと思うけど……

何しろ、今夜はこれから“S”と会う。
絶対誰にも知られるわけにはいかない。

――何を企んでいるのか知りませんが、余計なことはしない方がいいですよ。

――あなただって、もうあの時のような思いはしたくないでしょう? 身の破滅を招きますよ。


「念には念を入れないとね」
口の中でつぶやきつつ、廊下の先、明かりの漏れるパン教室に向かって「ズル休みしてごめんなさい」と手を合わせる。

それから私は踵を返し、以前来た時に調べておいた非常階段のドアを開けた。

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