ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
「ありがとうございましたーっ」
店員さんの声に続いて、カラン、と小さなカウベルの音。
膝の上できつく握りしめていた両手から、ゆるゆると力を抜いた。
椅子の背にもたれたまま、なかなか立ち上がれない。
誰かに失望されるというのは、思いのほか辛い。
自分が好意を持って尊敬してる人なら、なおさら。
それでも、涙は出なかった。
まだ、泣いてる場合じゃないから。
私はパン、と両頬を叩いて、潤みかけた視界をクリアにした。
そしてカバンを探ってスマホを取り出す。
“S”とのラインのやり取りを表示させると――
【お会いできるのを楽しみにしています】
メッセージの最後に、今日の日付と都内の住所が記されてる。
まだ、泣けない。
今はただ、やるべきことをやるだけ……
スマホを握りしめた私は、自分を励ますように勢いをつけて立ち上がった。
◇◇◇◇
「今日は難しいパンを作る予定なので、少し時間が押すかもしれません」
「構いませんよ。お時間ちょうどにはこちらでお待ちしております」
「わかりました。じゃあ行ってきますね」
夜8時。
新宿の一角で降ろしてもらった私は、運転手さんにいつもと変わらない笑顔を向け、すぐ目の前にある雑居ビルに入っていく。今日の最後は、パン教室だ。
エレベーターに乗り込むと、教室のある8階のボタンを押した。