ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
彼女の名前は山内織江。
秘書室アシスタントの一人で、直接オレと関わる仕事をしているわけじゃないが、役員室と秘書室が同じフロアにあるため、よく姿は見かけていた。
いつももっとナチュラルメイクで、髪は後ろでまとめていて、パンツスタイルが多かったと思う。だから印象が違って見えたんだ。
女っていうのは本当に服とメイクで変わるんだな、と若干皮肉っぽく考えつつ。
席を立たなかったのは、単なる好奇心。
いつもは真面目で控え目な印象の彼女が、勤め先の副社長相手にこんな大胆な真似を仕掛けたのはなぜか。
一歩間違えば、職を失う事態になるかもしれないのに。
あるいは、実はこちらが本性なのか……。
もちろん、手を出すつもりなんてなかった。
マスコミのせいで、オレが無類の女好きだと誤解してる奴らもいるようだが、あれはオレじゃなくて――……
まぁともかく、そもそも社内の人間となんて、遊びでも本気でも、面倒なことになるのはわかりきっている。
そんな危険を犯すほど、愚かじゃない。
――ええと、OLさんかな? このあたりで働いてるとか?
気まずい思いはさせたくなかったから、彼女に倣って初対面のふりを貫いた。
話を聞いて、バカなことはやめろと説教してやろう。その程度の気持ちだった。
――いいえ、職場は全然違うところ。今日はちょっと羽目を外したくて。
――へぇ、何か嫌なことでもあった?
――人生、そんなことだらけじゃないですか?