ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

混乱する頭を振り振り、ギュッと目を閉じては開ける、を繰り返す。
ううん、幻じゃない。今私が見ているのは、間違いなくリアルな現実。

どうして?
なんで?

だって……

そこにあるはずのものが、何もない。


お祖母ちゃんと一緒にのぞいた池もお祖父ちゃん自慢の松も、ばあやとかくれんぼしたツツジの茂みも、それからそれから……

「お母さんの紫陽花も、ない」

目の前に広がっていたのは、土がむき出しになったのっぺらぼうの更地。
昔はご近所さんが列をなして見物しにきたって言うくらい本格的だった日本庭園が、ブラックホールに飲み込まれた様にものの見事に、根こそぎなくなっていたのだ。

夜気のせいじゃなく一気に全身が冷えて、ぶるっと震えが走る。

「あぁ、このお庭の状態を見るのは初めてですか?」
動揺が伝わったのか、鶴田さんも足を止めてくれた。

「え、えぇ、お正月来た時はこんな風じゃなくて……」

「ほんのここ1か月ほどのことですよ。バタバタっと掘り起こして、池も埋めてしまって」

同情するような声を上の空で聞きながら、ジワリと視界が滲んでいくのがわかった。

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