ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない

赤茶けた土がぼやけて、記憶の中の光景が蜃気楼のように揺らぎながら現れる。
あそこに池、あそこに茂み、松と梅が立派な枝を伸ばして……そしてその向こうに広がっていたのが紫陽花の群れだ。

最初は一株だけだったのに、お母さんがそれじゃ寂しいからと空いたスペースに植え始めて、いつの間にか紫陽花の見本市みたいにいろんな色や種類が楽しめるようになったんだっけ。

花の時期を間近に控えた今くらいなら、青々とした葉っぱがもう見事に茂っていただろうに。蕾だってついていたかもしれない。
それを全部、あっさり刈り取ってしまうなんて……


「なんでも、キララお嬢様の新居がこちらに建つとか。渡り廊下で母屋と行き来できるようにするそうですよ」

呆然としながらも、頭のどこかでそういうことかと腑に落ちた。

そういえばお正月の時、前の家政婦さんがこっそり教えてくれたっけ、キララが今度こそ卒業できそうだって。

留年を経て、この春大学を卒業して。
やっと正式に婚約者と結婚、ここで新生活を送るってことか。

じゃあ……庭は諦めるしかない。
この家で、私に発言権なんてあるわけないんだから。

唇を噛んで庭から視線を外すと、私は再び廊下を進み始めた。


――ごめん、もう別れてほしい。
――ごめんね、お姉ちゃんっ! 彰さんを責めないで。全部キララが悪いのっ!

2年半前の苦い思い出が蘇ってしまい、きつく唇を引き結んだ。

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