ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
マズい。彼の導火線はかなり短いのだ。
勝手にブチ切れてる佐々木君にはうんざりしてしまうが、元はと言えば私が火をつけたようなもの。ここは私がなんとかしなくちゃ、と足を踏み出しかけた。
そこへ、ドタバタっと近づいてくる威勢のいい足音。
ほどなく乱暴に再びドアが開き、汗だくの男性が現れた。
「あぁ申し訳ない! お待たせしてしまって佐々木さ――あれ、副社長? どうされたんですかぁ? こんなところで」
広い額に噴き出す汗をハンカチで拭き拭き、人の好さそうな丸顔できょとんとこっちを見つめたのは、くだんの電話を寄越した営業さんだ。
「へ? ふ、ふくしゃ、ちょう?」
その次の佐々木君の変化は、なんていうかすごかった。
ガコンと顎を限界まで落として口を開け、リトマス試験紙みたいにみるみる青ざめて、まるでマンガのキャラクターみたい。
こんな時じゃなければ、笑っていたかも。
「村瀬貴志です。名前、知りたかったんですよね?」
余裕たっぷりのバリトンが言う。
誰もが魅了されずにいられない微笑をその顔に浮かべて。
「私からも石原には同じことを伝えておきますよ、『業務提携はよくよく考えた方がいい』ってね」
皮肉っぽい眼差しで彫像と化してる佐々木君を一瞥した副社長は、「行くぞ」と言って、私の手を……手を……?
手? 手、手!?
ぇ、えぇええっ?
副社長に手を引かれてるという事実に、頭は真っ白。
一言も発せないまま引っ張られて、私たちは会議室を後にしたのだった。