ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
話の流れに違和感を覚えて聞き返すと、高橋さんはわかってる、という風に生真面目に頷いた。
「元カレから迫られて、大変だったそうね。副社長から聞いたわ」
「あ……は、ぁ……」
え、そこ?
「というわけで、しばらくこの部屋には戻らないつもりで荷造りしてね。洋服は、下着も含めてすべて用意するから必要ないわ。化粧品やアメニティ類も同様にこちらで揃えます。どうしても必要な常備薬とかコンタクトのケアグッズ、その程度で大丈夫よ。後から買いそろえても間に合う物は置いて行って。荷物が増えるのも面倒でしょ」
「え、ちょ、ちょっと待って下さいっ……」
しばらく部屋に戻らない??
荷造り?? すべて用意する??
「ど、どういうことですか?」
「相手がストーカー化したらいけないでしょう? 特にここはオートロックもないし、空き部屋も多い。監視カメラもついてない。今すぐ引っ越すべきだわ。でも心配しないで。会社で責任を持ってあなたを保護するから」
あぁ……そうか、なるほど。
つまり、副社長から昨日の話を聞いた高橋さんが、佐々木君がストーカーになって私を襲うかも、って心配して上にかけあってくれたのか。寮かマンスリーアパートみたいな避難場所を提供されるのかも。
つまり副社長が話したのは佐々木君のことだけで、あの夜のことは高橋さんはまだ知らない、と。そりゃそうよね、大事な恋人を一夜の過ちで失いたくはないだろう。
ようやく理解した私は、大急ぎで再び首と手とを振った。
「いえいえ、そんなご心配には及びません。昨日のはただ相手の性格っていうか、単なるジョークで。特に実害があったわけでもありませんし」
「実害があってからじゃ遅いでしょ?」
麗しい眉をひそめて正論で諭され、なんとなく言葉に詰まる。
「従業員の安全を守るのは、会社として当然のことよ。あなたが気にすることはないの」