ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
どうしよう……。
キララとの結婚を控えている彼が、これ以上バカな真似をするはずがない。
そもそも、私なんて彼の眼中にないのだ。
本当にそんな心配はいらないのに。
それに私は辞めるつもりなんだし――と、説明しようとするも、「会社が決めたことだから」とやんわり拒否されてしまった。
そうして口を挟む間もないまま急き立てられ……
結局、出勤時間が迫ってきたこともあり、携帯の充電器やら常用してるコスメ、数泊分の服だけをひとまず旅行カバンに詰め込むと、運転手つきの社用車へ。
移動中も、忙しそうにタブレットを操る高橋さんには一言も話しかけられないまま、とうとう会社へ着いてしまった。
けれど、驚きはそれだけでは終わらなかったのだ。
◇◇◇◇
退勤時刻を15分ほど過ぎた頃。
ノリちゃんを含めあらかたの同僚が帰途についてガランとした秘書室フロアで、私はまだポチポチとパソコンを打っていた。
今日中に仕上げなければならない仕事はすでに終わっていたが、高橋さんに、新しい部屋へ案内するのでそのまま待っているようにと言われていたからだ。
朝用意した旅行カバンは、私より先に“避難先”へ直接運ばれているはずだから、断るにしてもとりあえずそこまでは行かないといけない。
一体どんな所なんだろう……
派遣会社に退職の連絡をするはずが妙なことになっちゃったな、と椅子の背にもたれて吐息をついたタイミングだった。
低い美声が話しかけてきたのは。
「山内さんお待たせ、遅くなって悪かった。帰ろうか」