雨宮課長に甘えたい【2022.12.3番外編完結】
心臓がドクドクと脈打ち、指先が冷たくなる。

課長があの佐伯リカコと結婚していたなんて……。
お子さんもいて……。

知らなかった。
だけど、打ち明けてもらえて良かった。

ショックだけど、知らない方がもっとショックだ。

それに、課長のお子さんには興味を持った。
課長に似ているのかな? 課長の分身に会ってみたい。

「お子さんは、佐伯リカコさんが引き取ったんですか?」

課長が深いため息をつく。

「亡くなったんだ。小児ガンでね。まだ5歳だった」

えっ……。亡くなった……。

「優しい(まこと)と書いて優真(ゆうま)という名は俺がつけた。優真が病気になってから俺はその事実を直視できず、病院にはあまりいかなった。全部、母親の彼女に押し付けてしまったんだ。俺は酷い父親だった。優真が亡くなった後は彼女とギクシャクしてね。顔を合わせればケンカになって、それで優真が亡くなってから一年も経たないうちに、彼女とは離婚した。その方がお互いにとっていいと思ったんだ」

なんて悲しい話なのだろう。
お子さんを亡くすなんて……。

涙が溢れる。

「やっぱり、中島さんは泣いてくれるんだね」

課長が私の瞳に浮かぶ涙を拭ってくれた。

「だって、課長の気持ちを想像したら、胸が痛くて、悲しくて。それに優真君の事を考えたら……すみません。泣きたいのは課長なのに。私が泣いている場合じゃないのに……」

「ううん。優真の為に泣いてくれてありがとう。俺こそごめん。つまり俺はそういう重たい事を引きずっているんだよ。その上で俺とつき合うかどうかは決めて欲しい。車でキスした時、そう思ったんだ。しかし、また状況が変わってしまった」

課長がさらに深いため息をついた。

「中島さん、ごめん。今はつき合えない」

課長が頭を下げる。
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