雨宮課長に甘えたい【2022.12.3番外編完結】

おまけ

午前中の業務を終わらせて、カフェバーに行くと拓海さんが先に来ていた。今日は一緒にランチをしようと約束していた。

宣伝部に復帰したお祝いに拓海さんが一番人気のローストビーフド丼をおごってくれる事になっていた。毎日、限定30食なので滅多に食べる事は出来ない。しかし、今日は拓海さんが総務課長の権限を使って確保してくれる。

「あれ? 久保田くんも一緒」

拓海さんが私の後ろに立つ久保田を見つける。

「はい。雨宮課長がローストビーフ丼をおごってくれると聞いたので、ついて来ました」

嬉しくて、つい久保田に話してしまった。

「そう」

拓海さんの笑顔が心なしか引きつっている気がする。

拓海さんがキープしてくれていたのは2食だった。
優しい拓海さんはローストビーフ丼を久保田に譲り、クラブサンドも美味しいんだよと言って、クラブサンドを食べていた。

久保田を連れて来て申し訳ない。

「雨宮課長の分を取っちゃったみたいですみません」

久保田の言葉が白々しい。

「中島さん、午後は中島さんと一緒に社外に出て打ち合わせですよね。阿久津部長が直帰でいいと言っていたから、打ち合わせの後に一緒に映画でも観に行きません? 市場調査も大事ですから」

映画か。いいかも。
他社で配給している物もチェックしておきたい。

でも、拓海さん、何時に帰って来るんだろう? 遅くなって大丈夫かな?

「奈々ちゃん、今夜は俺、残業だから気にしないで大丈夫だよ」

うん? 奈々ちゃん?
拓海さんが会社で奈々ちゃんって呼んだ。いつも中島さんなのに。

「ああ、そうだ。帰りにボディソープ買っといて欲しいな。昨日の夜、奈々ちゃんで最後だったって言ってただろう?」

あれ? 拓海さん、すぐに新しいの出してくれたよね。
買い置きもあったような。

「そう言えば今朝、奈々ちゃんが作ってくれた味噌汁美味しかったな」

ボディソープに味噌汁……。

なんか私たちが一緒に暮らしている事を強調するような単語ばかりが拓海さんから出てくるような。

もしかして久保田を牽制しているの?

久保田を見ると驚いたように目を丸くしていた。

「まさか中島さんと雨宮課長って一緒に……」
「一緒に暮らしているが」

拓海さんが得意げな顔をする。

久保田がしょんぼりしたように肩を落とした。
私の事好きって言ってくれたからな……。

久保田がちょっと可哀そう。

拓海さん、そんなに独占欲丸出しの発言しなくてもいいのに。
もう、甘くなっちゃう。

えへっ。


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