雨宮課長に甘えたい【2022.12.3番外編完結】
「奈々ちゃん……どうしたの?」

雨宮課長が戸惑ったような視線を向けてくる。

「そうか。事故に遭ったから混乱しているんだね」
「私、事故に遭ったんですか?」
「バレンタインデーの映画を宣伝するイベントに来ていた子どもを庇って、映画館の階段から落ちたって聞いた。それで奈々ちゃんは頭を強く打って」

映画館の階段から落ちた……?
全然覚えていない。

雨宮課長の視線が私の頭に向けられる。
右手で頭に触れようとすると、「ダメだよ」と、骨張った手が止めるように私の手を握る。

大きくて温かい手……。

「頭は包帯が巻かれているから。幸いにも大した傷ではなかったらしいが、それでも、頭が切れていて、二針縫ったって聞いた」

頭が切れててニ針……。
背筋がゾクッとする。

「体も打ち身だけで骨折はなかったって。頭の怪我だけで済んだのは本当に不幸中の幸いだと、久保田君が言っていたよ」

久保田が……。
仕事はどうなっているんだろう?
イベントで子どもを庇ったってさっき言っていたよね?

「雨宮課長、イベントはどうなったんですか? お子さんは大丈夫だったんでしょうか?」

「かすり傷一つなかったようだよ。イベントの方も心配いらないから」

良かった。
お子さん、無事だったんだ。

ガラガラとまた扉が開く音がして、今度は看護師さんとお医者さんらしき女性が入って来る。

「中島さん、ご気分はどうですか?」

お医者さんに聞かれる。

「少しぼーっとしています」

それから私の状態について説明された。
頭を強く打ち、私は意識がないまま救急搬送されたよう。検査をした所、骨が折れている事も、頭に血が溜まっている事もなく、ちょっと頭を切ったぐらいで異常はないらしい。

異常がないと聞いてほっとする。
ただ今日は入院になるそう。

先生の説明の後に看護師さんに聞かれた。

「中島さんは同居のご家族がいらっしゃいますか?」
「えーと、ひとり……」
「僕が一緒に暮らしています」

一人暮らしと言おうとしたら、雨宮課長の言葉が重なる。

え?

僕が一緒に暮らしています?
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