雨宮課長に甘えたい【2022.12.3番外編完結】
金曜日の夜、桃子に誘われて久しぶりに二人だけで銀座のワインバーに飲みに行った。

しっとりとしたピアノの曲がかかるワインバーは桃子のお気に入りで、よく連れて来られる。

木目が美しいオーク材を使用したカウンター席に腰かけ、私は白ワイン、桃子はワインベースのカクテルのキールで乾杯をした。

料理は彩り冬野菜とチーズのグリル、特製のラザニア、黒毛和牛のロースト、ソーセージの盛り合わせを頼んだ。

お腹が空いていたので、ワインよりも食べる方がすすむ。
そんな私を見て、「奈々子、元気そうじゃない」と桃子が微笑んだ。

復帰したこの一週間はどうだったかと聞かれて、宣伝部では久保田を始め、みんなが仕事をサポートしてくれていたので問題がなかった事を話した。

総務にいた時の人が何人か心配して様子を見に来てくれた事も話した。栗原さんとまりえちゃんと言ったかな。残念ながら二人の事は覚えていないと言ったら、桃子が「私は」と自分の事を人差し指でさす。

「覚えているに決まっているでしょ! 同期なんだから」
「良かった」

桃子がほっとしたように胸に手を当てる。

「本当に記憶喪失ってあるんだね」

しみじみと桃子が言う。
私が記憶喪失になっている事はあまり人に知られたくなかったから、会社では久保田と、桃子と雨宮課長にしか話していない。

「奈々子にとって一番甘い記憶なのにね。もったいない」

一番甘い記憶……?
どういう事?
< 326 / 373 >

この作品をシェア

pagetop