だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

265.俺は初恋と出会った。

 生まれてこの方、理想だけが高くなり恋なんて遠い世界の話だと思っていた。
 自他共に認める夢見がち。奥手と言えば聞こえはいいが、要は自分がなく卑屈で陰気……いわゆる部屋の片隅にいる系の人間だった。

 人前に出る事なんて勿論苦手だし、人前で喋る事なんてもっと嫌いだ。
 叶うならずっと部屋に籠ってローズと二人で本を読んでいたい。そんな事ばかり考えていた子供の頃。
 人よりも自我の芽生えが早く、精神的成長も段違いに早かった俺は……いわゆる早熟した存在だったらしい。
 その代わりと言ってはなんだが、俺は体が貧弱だった。ディジェル領の民としては明らかに異質な存在。簡単に言えば出来損ないで、これがあったから城から出る事は無く、暫くは狭い世界の中で生きていた。
 可愛い妹がいたから全然寂しくはなかった。でも、人並みには妬み嫉みを抱いていた。

 周りの人全てが羨ましかった。俺は生まれながらに出来損ないの烙印を押され、世間から存在を秘匿されていた。例えそれが俺を守る為の事だとしても、当たり前のように強い肉体を持つ人達に守るよう世話をされ、同情される度に俺は惨めな気持ちになっていた。
 そんな幼少期を過ごしていたから、俺はこんなにもひねくれた性格になってしまったのだろう。

 ずっと存在が秘匿されていた俺だが、それでもやはり人の口に戸は立てられないので、どこからともなく『領民の落ちこぼれのテンディジェルが生まれたらしい』という不名誉な噂が領地に広まっていた。
 その話を聞いた時、はっきり言って絶望した。ただでさえ肩身の狭い思いをしているのに……何でそんな事になるのぉ? と幼いながらに世界に辟易したぐらいだ。

 それでも出来損ないで落ちこぼれの俺がこの地にテンディジェルの人間として存在してしまった以上、テンディジェルらしく領地に貢献しようと思った。
 だってそれしか俺にはなかったから。人よりちょっとだけ記憶力がいい俺は、これまでの政策や様々な事件事故災害等を全て頭に入れて、そこから新しく草案を練って父さんや伯父様に渡して来た。

 少しでも出来損ないの俺がこの領地の役に立てるなら。
 こうする事で俺が領民に認められる必要はない。俺が真の意味で認められる日なんて永遠に来ないのだから。
 それでも俺は構わなかった。領民から愛される必要なんてない。受け入れられる必要もない。ただ俺が領地と領民を愛してたら……それが、俺が領地の為に動く理由になるから。

 そもそも、領民達は自分と違うものを受け入れられない。それも妖精の祝福の影響なんだけど、それによって祝福を授かっていない俺の事を知った領民達は、『何それ?』『そんなのありえる?』『えー、信じられないー』『うわぁ、何で皆と違うの? おかしくない?』と口々に零す程、俺という存在を受け入れられないらしいのだ。
 ならもう、仕方無いよね。あちらが俺に最初から期待していないように、俺だって領民に何も期待していない。

 君達はただディジェル領の民らしく生きればいい。俺の事なんて受け入れなくとも愛さなくてもいい。
 俺は、俺自身の行動の理由の為、事務的に君達を愛するから。俺に興味が無い君達ならば、きっと俺がどれだけ君達を愛そうとも気にしないでくれるよね?
 俺は愛する領民と領地の為にと、とにかく世界をより良くする方法を考えては父さんや伯父様にそれを託した。
 空いた時間は全てそれに宛てて、とにかく薄暗い部屋に引きこもっては頭を動かしていた。

 そんな俺が表に出るようになったのは、ローズが四歳になった頃。
 ローズが俺以外の人の前で歌った事が原因だった。それは父さんや伯父様の前でだったんだけど……あんなにもしくじったと思った事は人生でも数える程しかない。
 俺は、初めてローズの歌を聞いた時からその特異性を理解していた。だからローズには二人の時に歌うよう伝えていたのだが、俺以外の人の前で歌うなとは言っていなかったのだ。
 それが過ちだったのだと、ローズが父さん達の前で歌った時に痛感した。

 父さんはローズの歌の力をすぐさま理解し、ローズを利用する事に決めたらしい。ローズの歌の力を知ったら父さんは確実にそうすると分かっていた。だから、ローズを守ろうとそれまで必死に隠していたのに。
 俺が、ローズにちゃんと言いつけておかなかったから……っ!
 あの日は、自分の詰めの甘さに酷く後悔した。
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