だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「あら、フォーロイト帝国の王城に職を持つ程の優秀な方が根拠の無い噂に踊らされる姿が見られるなんてとても貴重な光景ですわね。自らの発言に責任を持つ立場にある方がそこまで堂々と仰るのですから、常日頃の職務のように確実な裏を取った上で発言されているのでしょう。であれば……確かに、私《わたくし》は噂通りの野蛮王女なのかもしれないわ」

 私はお得意の営業スマイルを作った。そんな私を見て周りの人達は化け物でも見たかのように恐怖していた。
 何せフォーロイトの血筋には心も無ければ人間性も無く感情なんてある筈も無いとまで言われる程、この血筋の人間は人間らしくないのだ。
 よって、感情の機微など無くただ無表情で全てを済ませる我が一族は……笑うだけで周りから恐れられてしまう。皇帝やフリードルを知る者なら殊更。
 私は噂について肯定も否定もしなかった。否定した所で最早意味は無いと悟ったからである。
 だがしかし、別に肯定も否定もしなくても男の威勢を削るぐらいなら容易いものだ。

「罪の無い侍女に手を上げようとしたと言う罪があるから、私《わたくし》はどれだけ手を上げられようと文句は言えないのでしょうね。例えそれが、まだ事実であるとは証明されていないものなのだとしても……えぇ、貴方がこれを罪と断じたのであれば仕方ありません。世間知らずで傍若無人な野蛮王女は、きっと貴方の言う罪を犯したのですから」

 一応、男は私を王女として認識してはいるそうだし……ここまでへりくだって暗に冤罪なんだよと諭せば、聡明な人なら過ちに気づいてくれるだろうと思ったのだが……。

「……っ、だが私も、周りの者達も確かに見ました! 貴女が彼女に手を上げようとした瞬間を!」

 男は諦めなかった。どうやらこの男はどうしても私を悪にしたいらしい。
 笑顔を崩す事無く呆れたように男を見ていると、それに気づいた男が、何でそんな目で見てくるんだ! と言いたげに不機嫌そうに眉を顰めた。

「私《わたくし》の言い分を聞いて下さるかは分かりませんが……それがそもそもの間違いなのです。私《わたくし》は侍女に手を上げようなどとしてませんわ。確かに道を聞こうと彼女に声をかけ、噂の影響かいたずらに怯えさせてしまったのは事実ですけれど……私《わたくし》はただ、あまりにも彼女の顔色が悪かったので体調が悪いのかと確認がしたかっただけよ」

 少し額に触れて熱があるのか確認したかっただけなのに……どうしてここまでややこしい事になったのか。
 でもまぁ、初対面で額に触れるってのも割とおかしい事よね。これは確かに私が悪いかもしれない。だがそれでもこの男は本当にうるさいぞ、そしてしつこい。
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