だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「あなたはきっと……とってもやさしくて、つよくて、たくさんの人をまもれるすごい人になるでしょうから! それなら、ハイラというおなまえがぴったりです!」

 王女殿下は私が泣き止んだのを確認してほっと胸を撫で下ろし、新雪のように柔らかく儚い笑顔を浮かべた。
 ……あぁ、どうしてそんな事が王女殿下には分かるのでしょうか。私が凄い人になれるだなんて──でも、とても嬉しかった。今までの私の努力や積み重ねは全て無意味では無かったのだと分かって、心の底から安心してしまいました。
 王女殿下、私は、今一度あの夢を見ても良いのでしょうか。大事な人を守りたいと願っても良いのでしょうか。
 もし、それが叶うのなら……私は貴女を守りたい。新たな私と、一度は捨てた夢を今一度与えて下さった貴女を……私はその名にかけてお守りしたいです。
 誰よりも純粋で、誰よりも高潔で、誰よりも優しい王女殿下。
 会って数十分足らずの私に、そのような資格が無い事は重々承知の上です。それでも私は…………ハイラとなるのであれば、その名に相応しく貴女の傍で貴女をお守りしたいのです!

「……ありがたく頂戴致します。本日より私めは──ハイラ、と名乗らせていただきます。これから王女殿下の侍女としてお仕え致します故、敬語もお使いにならなくて結構でございます」

 正しく膝を折り、頭を垂れる。
 どうすれば王女殿下の傍で王女殿下をお守りする事が出来るのでしょうか。皇宮という果てなき地獄において、少しでも王女殿下に快適に過ごしていただくには、どうすればよいのでしょうか。
 考えても考えても答えは出てきません。きっと、今、私の頭がとても興奮と幸福に満ちているからなのでしょう。
 興奮でまともに思考する事すら出来ない私に向けて、王女殿下がふにゃりと笑いながら手を差し伸べて来た。

「──ハイラ、きょうからよろしくね」

 窓から射し込む光が、王女殿下を照らす。光を背負いながら微笑むそのお姿は……まるで、神話に聞く神の使いのようでした。
 私はその手を取りました。不遜にも王女殿下の御手に触れてしまいました。
 細くて少し力を入れたらすぐにでも壊れてしまいそうなその手指を見て、私は更に守らねばという意思を固くしました。
 一度は諦めて捨ててしまった夢。これが最後だから……夢を見させて欲しい。叶えさせて欲しい。
 これから私はハイラとして生きる。あの家の庶子では無く、王女殿下の侍女のハイラとして。
 だから最後にもう一度──夢を追う事をお許しください、神よ。
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