だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「…………精霊様……」
「ん? お前何でここにいんの?」
「……部下に任せるより自分が行った方が良いかと思い」
「ふーん、あっそう」
(つーかあのチビはいねぇのな。何でだ?)

 ミカリアの存在に気づいたエンヴィーは興味無さげに言葉を返した。ミカリアよりもシュヴァルツの存在を気にしているようであった。
 そんなエンヴィーはミカリアをスルーしてアミレスの部屋の前に立つ。そして小声で胸元の猫に小声で話しかけていると……。

「おい、半分正解半分不正解とはどういう事じゃ。答えろ精霊よ」

 ナトラが眉尻を上げてエンヴィーを睨んだ。その口の端は苛立ちに歪んでおり、その声からも今のナトラの感情が簡単に見て取れる。
 そしてその瞬間──

((((精霊!!?))))

 ──ディオリストラス、シャルルギル、イリオーデ、リードの顔が驚愕に染まった。
 マクベスタが師匠と呼び、アミレスの師匠でもあると言う男が……まさかまさかの精霊だったのだ。驚くのも無理はない。
 その中でもただ一人リードだけは、(あぁ……そう言う事か)とその正体に納得もしていた。
 そして、エンヴィーは思い出したようにナトラに向け説明を始めた。

「姫さんは人間社会では安全な場所に生きている。だが姫さんの人生においてはかなり危険な場所に生きてるって事だ」
「意味が分からぬ。もっと簡潔に話せ、精霊」
「えぇ……簡潔に? はぁ、そうだな……」

 言い方が回りくどいのじゃ、と文句を言いつつナトラは更なる分かりやすい解説を求めた。それにエンヴィーはめんどくせぇと言いたげにため息をついた。

「──姫さんの住む場所は皮肉な事にあの国で一番対外的に安全な所だ。だけど姫さんにとっての危険はよりにもよって内側にいるんだよ」
「……どう言う事じゃ?」
「姫さんはいつ親と兄に殺されるかも分からないって状態で簡単に殺されないように必死に頑張ってんの…………っつーか今更だけど何で緑の竜がここにいんの? 姫さんとどーゆー関係なんだよ……」

 エンヴィーの語ったアミレスの悲惨な運命にそれを知らなかった者達は息を飲み、それを既に知っていた者達は皇帝達に向け義憤を覚えた。
 何もかもが歪で出鱈目な少女。そんな少女がいつ身内に殺されるかも分からない状況下で生きる為に必死で足掻いてきた──。
 その背景を知ってしまい、彼等は皮肉にも納得してしまったのだ……あの異常さは無情の皇帝と氷結の貴公子に対抗する為に発現させたものなのだと。

(──あぁ、そうか。シュヴァルツ君の言っていた後ろ盾はこの為のものだったのか。確かに、それなりに大きな宗教と繋がりがあれば簡単には殺せなくなる…………こんな僕を頼らざるを得ない程、彼女は危険な立場にあるのか……っ)
(……エリドル・ヘル・フォーロイト皇帝はあれ程までに優秀な姫君を殺すというのか? 勇気に満ち、慈愛に満ち、才覚に満ちた姫君から……幸福を奪おうと? 何故そのような愚かな真似を──)

 リードとミカリアがそれぞれ苦い思いを抱く。
 するとそこに、精霊による追い討ちがかけられる。

「──正確には、いつかの未来で殺される……って話みたいだけどね。あの子はずっと……六年前からずっと、ただ生き延びて幸せになりたいと。ただそれだけを考えて血のにじむような努力をして来た」

 その声はエンヴィーの抱える猫から聞こえて来た。この中でその猫を知る者はマクベスタとメイシアだけ。その二人以外は猫が喋りだした事に唖然とした。
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