だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「師匠……お覚悟を!」
「能力のお試しですから初撃は受け止めるんで、どっからでもかかって来なさいな」

 強く地面を蹴る。用意してもらったヒールやドレスが汚れてしまうだろうが、今は気にしない。後で弁償すればいいだろう。
 そして師匠を間合いに捉え、まず一撃、めっちゃ重くなれと思いながら振り下ろす。
 しかし師匠は飄々とそれをいなす。次は師匠の攻撃だった。いなした際の動きの流れで横に一薙。すんでのところで後ろに退いて避けた。
 師匠の攻撃はとにかく早い。注視してなければ見えないぐらいに早く強い。視認してからギリギリ避けられるかどうかぐらいで、一瞬の躊躇が死に繋がるような相手だ。
 だから躊躇う訳にはいかない。このヒト相手に下手な心理戦など不可能。今私に出来る事と言えば、とにかく突っ込む事ぐらいだ。

「うぉっ、何々ィ〜? 剣戟を繰り広げようって感じっすか?」
「まぁそんな感じ、ねっ!!」

 剣を振って避けて突いてしゃがんで弾いて飛んでいなして押さえての剣戟。
 効果があるかよく分かってないが白夜にはめっちゃ重い感じでと指令を出し続けている。相手が師匠だから何も分からないのだが。
 このままずっと剣戟を続けていれば私が負ける事は確実。だがせっかく師匠と試合が出来るんだ、どうせなら勝ちたい。
 その為にすべきは早期決着。どうにかして師匠を出し抜かねば……!

「……師匠、ありがとうございます」
「急にどうしたんすか姫さん。試合中なのに気ィ抜くなんて珍しい」
「ただ……この剣をくれてありがとうって言いたくて」
「そこまで言って貰えるなんて。姫さんの為に用意した甲斐がありましたわ」

 攻防一体の斬り合いをしながら師匠と話す。そして私は、白夜に込めていた全ての力を一気に抜いた。それにより一進一退の攻防は師匠優勢となり師匠の剣は私の肩めがけて振り下ろされる。
 師匠は突然の事に驚愕しつつも攻撃をやめようとするが、その直前に私が下から剣を振り上げて、師匠の剣を上空に弾き飛ばした。
 師匠はどうしてか特訓でも私を無闇矢鱈と傷つけない。その性格を利用した汚いやり方だ。
 そして弾き飛ばされた剣が後方にて地面に突き刺さる。ポカーンとしていた師匠だったが、瞬く間に「くっははは!」と楽しそうに笑い出して。

「いやぁ……一本取られましたよ姫さん。まさかあんなフェイントを仕掛けてくるとは」
「師匠に勝つならある程度汚い手を使うしかないと思って」
「だとしても凄いっすよ、流石は俺の弟子だ!」
「わっ! ちょっと……せっかく侍女達が整えてくれたのに」

 とても嬉しそうに満面の笑みを浮かべながら、わしゃわしゃと私の頭を撫で回す。
 その時だった。視界の端に凄まじい速度で飛来する猫が映ったのは。

「猫キック」
「いっだぁっ!? 何するんすかシルフさぁん!!」
「アミィに馴れ馴れしい男にはどんどん牽制する事にした」
「別に俺は良くないですか?!」
「死にたいなら今すぐ殺してやるけど」
「死にたくないですけど!! てかそれ地味に痛いです!」

 その猫は師匠の横顔に華麗な飛び蹴り(猫キック)を食らわせた後、衝撃で倒れてしまった師匠の顔に更なる殴打(猫パンチ)を繰り返していた。
 流石に師匠が可哀想なので途中で猫シルフを抱き上げて回収する。あんまり虐めちゃ駄目だよとシルフに小言を言いつつ、剣を鞘に収めて皆の元に戻る。
 おまたせ〜と告げたものの、皆の反応は芳しくない。これはアレだ、案内の途中なのに自分勝手な行動をしたから皆怒ってるんだわ。
 それに気づいた私はその後の案内の時間はとても静かにしていた。もう自分勝手な行動はしません。団体行動をします。と肝に銘じて皆と一緒に歩いていた。
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