真夏の夜の夢子ちゃん
祖父の住む町は、相変わらずのどかで田舎で、コンビニもない。
しかし、3年ぶりに訪れた祖父の家はかなりの変化を遂げていた。
まず、居間と寝室にはエアコンが設置されていた。
ここ数年の酷暑で、高齢者が熱中症で亡くなっているというニュースを目にした母親が、慌てて家電量販店に注文したのだ。
祖父ももう80歳。
体温調節もままならなくなってくる年齢らしい。
そしてさらに驚くべきことは、祖父の家にもついに、Wi-Fiルーターという文明の利器が導入されたことである。
こちらもやはり、高齢の祖父を案じた母親がスマホをプレゼントしたことがきっかけだ。何かあった時にすぐに連絡が取れるようにと購入した。
ついでに、インターネットでは色々調べることができて便利よ、とWi-Fiも繋がるようにしたのだ。
母親が何度か祖父とやり取りをしているのを聞いたことがあるが、ほとんどが安否確認だった。しかも祖父は、スマホを家に置いたまま出かけることもしばしばらしく、意味がないと嘆いていた。
そんな祖父のスマホ事情はともかく、この家にネット環境が整ったことは洸平にとっては喜ばしい出来事だ。
お盆中は塾のオンライ授業が配信される。
祖父の家にいる一週間、授業にも参加できずネットと切り離された生活を送ることは、受験生の自分にとっては痛手となる。
それなら帰省しなければいいではないかという声も聞こえてきそうだが、やはりあの子にまた会いたいという思いがあるので、来ないわけにはいかない。
つくづく自分でも不思議でならない。
また会おうと約束したわけでも、必ず会えるという確証があるわけでもないのに、夜にあの川べりに行けばあの子がいるような気がする。
まるで自分が会いたいと望むから、あの子があそこで待っていてくれているような錯覚に陥る。
今度こそ、名前と連絡先を聞こう。できればLINEも交換したい。
そうすれば離れていても連絡が取り合えるし。
そこまで考えて、洸平は自嘲気味に笑った。
連絡を取り合うって…何のために?
付き合っているわけでもなければ、そもそも友達という関係でもない気がする。
それでもあの子と何らかの接点を持ちたい。そう思うから、今夜も夏野菜だらけの夕飯を、急いで腹に詰め込む。
「また蛍の川に行くの?」
飯を掻き込んでいる洸平を見て、母親は呆れた顔をした。
「そんなに蛍が好きだったなんて知らなかったわ。」
ねぇお父さん、と母親が言うと、祖父は何も言わずに洸平をちらりと見た。
「今夜はこれからお客様が大勢いらっしゃるから、早く帰ってきてね。」
そう言う母親を尻目に、洸平はあの川へと急いだ。
少し早足になる自分がおかしくて笑える。
外は暑いし、早足で歩いているから心臓がドキドキして苦しいのか、あの子に会えるかもしれない期待からそうなっているのか、そこがわからない。
しかし、3年ぶりに訪れた祖父の家はかなりの変化を遂げていた。
まず、居間と寝室にはエアコンが設置されていた。
ここ数年の酷暑で、高齢者が熱中症で亡くなっているというニュースを目にした母親が、慌てて家電量販店に注文したのだ。
祖父ももう80歳。
体温調節もままならなくなってくる年齢らしい。
そしてさらに驚くべきことは、祖父の家にもついに、Wi-Fiルーターという文明の利器が導入されたことである。
こちらもやはり、高齢の祖父を案じた母親がスマホをプレゼントしたことがきっかけだ。何かあった時にすぐに連絡が取れるようにと購入した。
ついでに、インターネットでは色々調べることができて便利よ、とWi-Fiも繋がるようにしたのだ。
母親が何度か祖父とやり取りをしているのを聞いたことがあるが、ほとんどが安否確認だった。しかも祖父は、スマホを家に置いたまま出かけることもしばしばらしく、意味がないと嘆いていた。
そんな祖父のスマホ事情はともかく、この家にネット環境が整ったことは洸平にとっては喜ばしい出来事だ。
お盆中は塾のオンライ授業が配信される。
祖父の家にいる一週間、授業にも参加できずネットと切り離された生活を送ることは、受験生の自分にとっては痛手となる。
それなら帰省しなければいいではないかという声も聞こえてきそうだが、やはりあの子にまた会いたいという思いがあるので、来ないわけにはいかない。
つくづく自分でも不思議でならない。
また会おうと約束したわけでも、必ず会えるという確証があるわけでもないのに、夜にあの川べりに行けばあの子がいるような気がする。
まるで自分が会いたいと望むから、あの子があそこで待っていてくれているような錯覚に陥る。
今度こそ、名前と連絡先を聞こう。できればLINEも交換したい。
そうすれば離れていても連絡が取り合えるし。
そこまで考えて、洸平は自嘲気味に笑った。
連絡を取り合うって…何のために?
付き合っているわけでもなければ、そもそも友達という関係でもない気がする。
それでもあの子と何らかの接点を持ちたい。そう思うから、今夜も夏野菜だらけの夕飯を、急いで腹に詰め込む。
「また蛍の川に行くの?」
飯を掻き込んでいる洸平を見て、母親は呆れた顔をした。
「そんなに蛍が好きだったなんて知らなかったわ。」
ねぇお父さん、と母親が言うと、祖父は何も言わずに洸平をちらりと見た。
「今夜はこれからお客様が大勢いらっしゃるから、早く帰ってきてね。」
そう言う母親を尻目に、洸平はあの川へと急いだ。
少し早足になる自分がおかしくて笑える。
外は暑いし、早足で歩いているから心臓がドキドキして苦しいのか、あの子に会えるかもしれない期待からそうなっているのか、そこがわからない。