大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
彩絵は今日も主役にふさわしい、肩を見せるベアトップのデザインのドレスを着ている。
鮮やかな深紅で、それがまた彼女によく似合っていた。
カメラマンやワイドショーのレポーターに囲まれて、晴れやかな表情だ。
スポットライトのあたる場所に立っている時が彩絵を一番輝かせるのかもしれない。
詩織は目立たないブルーグレーの露出の少ないドレスを着て会場の隅っこに陣取り、彩絵が飲み干すグラスの中味に注目していた。
今日はノンアルコールでと言っておいたのに、シャンパンに手を伸ばしかけているようだ。
(そろそろ声かけなくちゃ)
彩絵の唯一の欠点は、お酒の誘惑に勝てないことだろう。
アスリートにとって、飲酒はあまりよくない。
だから彩絵の体調や練習に差しさわりがないように、詩織はお目付け役を頼まれるのだ。
「彩絵、蓮見さんが迎えに来る時間だよ」
詩織が声を掛けると、彩絵もバレたと思ったのかグラスをテーブルに置いて神妙な顔をした。
「わかってる~。今日はまだ飲んでいないから、そんなコワイ顔しないでよ、詩織」
「私は先にロビーで待っているからね」
笑顔で誤魔化そうとする姉に、『甘えてもダメだぞ』と目だけで合図を送る。