大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした


コーヒーをゆっくりと飲みながら、瞬は返事に困っているように見えた。

(私とのこと、後悔してる?)

姉と付き合いながら、妹とも関係を持ってしまったのだ。
瞬は昨夜の成り行きを後悔しているのかもしれない。
でも、詩織の心に後悔はない。
瞬とホテルのロビーで会ったときから、いや、初めて会った日からこうなるのはわかっていた気がする。
たとえ今日で終わったとしても、詩織を恋人のように扱ってくれて嬉しかった。
この一夜だけでも愛された思い出があれば、十分だとさえ思っている。

「すぐには無理だ」
「すぐって?」

詩織は『これで終わり』と言われることだって覚悟していた。
だから瞬の言葉は、詩織が想像していたものではなかった。

「新車のキャンペーンが一段落するまで、待ってくれないか?」
「待つ……どういうことでしょう?」

「君と正式に付き合うのに、もう少し時間が欲しい」

詩織の心にパアッと光が差し込んだ。

「正式に……? そう言われましたか?」
「ああ。俺だってなにも考えずに君を抱いたわけじゃない。君だから抱いたんだ」
「沖田さん」

瞬はカップを置くと、テーブルの上の詩織の手をそっと握った。

「しばらくは家族にも内緒にしていてくれ」
「はい」
「会うのも……そうだな、横浜にしよう。少しでも東京を離れたい」

瞬にとって、横浜の街は自分のテリトリーなのだろう。
人目につかない場所や店があるから、そこで会おうと提案される。


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