大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
「詩織ちゃん、瞬を信じてくれ!」
瞬が拓斗にまで嘘をついていたとは思えないが、目の前を彩絵が瞬の母と並んで歩いているのだ。
いったいなにを信じればいいのだろう。
「彩絵が彼の本当の恋人だったのね」
「詩織ちゃん、それは……」
『間違いだ』と拓斗も言えないのだろう。
黙り込んてしまった彼も、今は混乱しているのかもしれない。
詩織は拓斗から離れて、エレベーターで一階に下りる。
(あれは、どういう意味?)
彩絵が奥の病室に行けるのは、沖田家に瞬の恋人だと認められているからだろう。
それなのに、彩絵は詩織に謝ったのだ。
病院に来ていたことで、詩織と瞬の間になにかを感じたはずだ。
『ゴメンね』
姉の言葉を頭の中で何度も繰り返す。
詩織を責めるか質すのがあたり前だろうに、彩絵が謝る意味がわからない。
(どうして彩絵は私にゴメンなんて言ったんだろう)
義母が彩絵をわざわざ早朝に呼んで瞬に会わせようとしているのは、離れて見ていてもわかった。
沖田家が瞬のために呼んだのは、詩織ではなく彩絵だった。
(瞬さんが私を恋人だって紹介してくれるって思い込んでいたけど)
あれはいっときの情事を誤魔化すための言い逃れだったのだろうか。