離婚前提から 始まる恋
公園を出て少し歩いただけで息が切れて、休み休みマンションへと向かう。
それでも、家を出た頃に比べれば気分がいい。
きっと体調不良の原因がはっきりしたことで、気が楽になったんだと思う。

今夜の夕食はそうめんにしようかな。
匂いのないそうめんならするりと食べられそうだし、勇人も好きだから喜んでくれるはず。
お酒のつまみは母の持たせてくれた総菜を温めれば十分足りると思う。

夕食の献立を考えながらマンションに向かっていた私は、エントランスの入口まで来て足を止めた。

「どう、して?」

いきなり私の前に現れたのは、真っ黒なスーツを着た中年の男性。
銀縁の眼鏡と綺麗に流された髪が印象的ないかにもビジネスマン風の風貌は、私もよく見知った人。

「花音さん、お迎えに上がりました」
「えっ」
ええ?

いつでも私の腕が取れるほどの至近距離まで来て、それでも絶対に手を出すことがないのはわかっている。
わかっているけれど、私は逃げ出すこともできずに固まってしまった。

「どうして風間さんが?」
何度か息を吐いてから、やっと言葉にした。

今私の前にいるのは風間康介さん。年齢は確か四十代後半だと思う。
実家の父に二十年以上ついているの側近で、秘書である兄よりも近い存在。
風間さんがここにいるってことは、きっと父の命を受けてきたってことだろう。
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