離婚前提から 始まる恋
カランカラン。
店のドアが開く音がして、お客さんが入って来た。

「いらっしゃいませ」
美貴さんの声に反応して、
「こんにちは」
返事をしてから私に向かってきた女性。
その人は、里佳子さんだった。

「ど、どうして?」
私の方が動揺して声が震える。

「今ここにいらっしゃるって聞いて、どうしてもお話がしたかったんです」
「私に、ですか?」
「ええ」

なんだか怖いなと思いながら、私は里佳子さんともに再びカウンター席に座った。

「私、異動になったんです」
「え?」

里佳子さんは勇人の側近であり片腕。
いなくなったら勇人が困るのは目に見えている。

「今月から海外事業部で働いています。とは言っても、今はまだ後任への引継ぎもあって行ったり来たりですけれど」
「そんなあ・・・」

このタイミングでの異動ってことは、きっと原因は私。
私が勇人に余計なことを言ったから、里佳子さんが異動になったんだわ。

「私のせいですね」
「いいえ。確かに、奥様とのことはきっかけの一つだとは思いますけれど、そろそろスキルアップしたいと考えてもいましたからいいチャンスでした」

決して怒っている様子はなく、明るい表情の里佳子さんに少しホッとする。

「奥様は、私が副社長のことを好きだと思っていたんですよね?」
「ええ」
今更ごまかしても仕方がないと、素直に認めた。

勇人と里佳子さんは特別な関係なのだろうとずっと思っていた。
みっともないことだけれど、私はずっと里佳子さんが恨めしいと思っていたし、妬んでいた。
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