離婚前提から 始まる恋
あ、いた。

会場の中央で来客の対応に追われている。
そして、勇人の隣には里佳子さんの姿もある。

私が尊人さんにつくように、勇人の秘書である里佳子さんが同行しているのは当然のこと。私だって頭では理解できている。
もちろんいい気分ではないけれど、これも仕事だと思って割り切るしかない。

「三朝副社長」

来客との話が一旦終わったらしく歩き出した勇人に向かって、若い男性が駆け寄ってくるのが見えた。

あれ、なんだか変な感じだな。
近づいて行く男性の鬼気迫った表情と強い語気に、私は違和感を感じた。

「あの、舟木社長」
スーッと、里佳子さんが勇人と近づいてきた男性の間に立った。

「お願いします。もう一度ご検討ください」
今にも土下座でもしそうな勢いで、詰め寄る男性。
大きなパーティー会場で大勢の人混みに紛れてまだ騒ぎにはなっていないけれど、近くにいる人たちはチラチラと男性を見ている。

「舟木社長、困ります」
一歩もひるむことなく、里佳子さんが男性に視線を向ける。

「わかっています。無礼なのは重々承知です。しかしうちだって、会社の運命と社員の生活がかかっているんです」
「それならなおさら、こういう手段をおとりになるべきではありません。これ以上騒がれますと、今回の受注だけでなく今後のチャンスまですべて失うことになりますよ」
「しかし・・・」

すごいな、迫力も言葉にした内容も完全に秘書の域を超えている。
本当に里佳子さんは勇人の片腕なんだ。
複雑な思いで、私は事の成り行きを見つめた。
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